パタハラとは_徹底解説

こんにちは。キャリコン社労士・村井真子です。

今回は育児介護休業法の改正に伴い注目が集まる「パタハラ」について解説いたします。

1)パタハラとは?

パタハラとはパタニティ・ハラスメントの略で、主に男性労働者が育児のための休業及び時短勤務などを希望し、あるいは取得したことについて、上司や同僚から嫌がらせを受けたりその取得を妨害するような行為を受けること、および実際に妨害する行為を指します。

パタハラは法律用語ではなく、マタハラ(マタニティ・ハラスメント)同様、ハラスメント行為の対象を分かり易くするための造語です。

「パタニティ」とは「父性」という意味。育児休業だけでなく子の看護休暇の取得、深夜時間帯の就業拒否など父性の権利を行使しようとする男性労働者に対して、育児介護休業法はその条文で不利益扱いの禁止事項を設けて保護を図っています。

パタハラ (3)

育児・介護休業法第10条より引用

事業主は、労働者が育児休業の申出をし、又は育児休業をしたことを理由として、当該労働者に 対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。 ※育児休業の他、介護休業、子の看護休暇、介護休暇、所定外労働の制限、時間外労働の制限、深夜業の制限、所定労働時間 の短縮等の措置について申出をし、又は制度を利用したことを理由とする解雇その他不利益な取扱いについても禁止されています。

2)なぜパタハラは起こるのか?――労働法の改正の歴史から考える

パタハラというのは企業におけるハラスメント(いやがらせ行為)の中でも新しい分野の言葉です。数年前まではパタハラという概念さえなく、そもそも男性が育児休業を取得するということ自体、ここ数年のトレンドといってよいでしょう。

実は、育児介護休業法が2010年に改正されるまで、配偶者が専業主婦(専業主夫)である場合に育児休業を希望した労働者の申し出を拒むことは合法でした。この規定が撤廃されたのは、当時出産した女性の約6割が離職していたという状況を政府が重く見たからです。

法改正のあった2010年は厚生労働省が「イクメンプロジェクト」を立ち上げるなど、「イクメン」という言葉が日本に完全に定着した年でもあります。

この背景には、育児をする男性を増やすことで1.39まで下がってしまった合計特殊出生率をなんとか改善し、更に減り続ける労働力としての女性労働者の社会参画を促したいという日本政府の事情がありました。

パタハラ

日本は戦後飛躍的な経済発展を遂げましたが、それを実現したのは「企業戦士」「モーレツ社員」と呼ばれた社員たちの長時間労働のおかげです。それを支えたのは専業主婦となった女性たちであり、男性が社会に出て賃金を稼ぐことができたのは、女性が子育てや介護など家庭における労働を一手に引き受けて男性を家事から解放したからでした。

その後、女性の社会進出が進み、1985年には男女雇用機会均等法が成立。この時点ではまだ努力義務であった性別を理由とする昇進・教育訓練における差別についても1997年の大改正で撤廃され、法の上では男女平等が実現されました。

更に2007年には二度目の大改正があり、募集や採用における間接差別の禁止や昇進昇格の際に転勤経験を問うような不合理な規定を禁じることが盛り込まれました。

3)パタハラの背後にある課題

しかし、従前の家族のあり方は女性の社会進出が続いた現在でも意識の上では残されてしまっており、昨今ジェンダー・バイアスとして問題視されているのはご存じのとおりです。

数年前、ある大手企業に勤務する夫を持つ妻がSNSでパタハラを告発し大炎上になりました。このケースでは会社から育休の取得を勧められたために夫が1か月ほど育休を取得、その復帰後2日目に地方転勤を命じられたとのことでした。

パタハラ

夫は新築で家を立てたばかりであること、子どもがまだ乳児であることから転勤の時期をずらせないかと交渉しましたが受け入れられず、結果退職することになったのです。

この一連の事実を公表した妻の発言は大きな波紋を呼び、その後の企業の対応の不手際もあって企業の株価は一時2割も暴落し、時価総額は624億円近いマイナスになりました。

ここから垣間見えるのは、「建前上育児休業を勧めたけれど、本当に取るなら報復するぞ」という企業のメッセージです。

実は、日本は世界でもトップクラスの手厚い育児休業制度があり、厚生労働省の調査によれば女性の8割が育児休業を取得しており、実際にそのうち9割の女性が復職しています。

しかしその反面、男性の育児休業取得率は15.8%にとどまっているのが現状。さらにいえば、女性は9割近くが6か月の育児休業期間を取得しているのに対し、男性は過半数が5日未満しか取得していません。(厚労省「男性の育児休業の取得状況と取得促進のための取り組みについて」より)

この調査からは実際に本人が取得を希望した日数が5日以内であるかどうかはわかりません。しかし、育児休業を取得できなかった理由として「業務が繁忙で職場の人手が不足していたから」「会社に育児休業の制度がなかったから」を上げている方が多く、周囲に対し遠慮したり、そもそも自分に権利があることをしらないという男性労働者の姿が浮かんできます。

したがって、企業は世の潮流や法改正情報に敏感になり、自社の価値を守る意味でも男性の育休について制度の啓蒙・普及啓発に勤める必要があるのです。

4)2022年10月には男性版産休制度もスタート!

今年は4月の法改正で、育児休業に関する周知義務や、実際に取得することが可能となるよう雇用環境を整備することが義務付けられました。

さらに10月からは出生時育児休業、通称男性版産休(パパ産休)の制度もスタート。
2回に分割取得可であることや休業期間中にも一定の要件を課して就労を認めるなど、取りやすさを重視した施策になっています。

パタハラは今や企業価値を脅かすほど重要な事件。
このようなことが二度と起こらないよう、企業の経営者や人事担当者の皆様にはぜひ早めの対策をお勧めいたします。