村井社会保険労務士事務所代表の村井です。
昨年末の労働政策審議会の議題に上がるなど、政府がいよいよ本腰をあげた男性の育児休暇。
企業においては対象となる男性社員へ育休を周知することが義務付けられたり、取得にあたっての申請期限を2週間前でよいとするなど、少子化対策の一環として大規模な法改正も検討されています。
いままでは育児休業といえば出産をする女性労働者の権利として語られがちでした。実際、令和元年度の厚生労働省の調査によれば、女性では83%の労働者が取得されているのに比べ、男性の取得者は微増しながらも7.48%にとどまっています。
目次
◆男性が育児休業を取得することのメリットとは?
では、男性が育児休業を取得することのメリットは何でしょうか。
大きく分けると、そこには3つの効果があります。
1つ目は、かけがえのない家族との時間を作ることができるということ。
赤ちゃんのお世話を配偶者と二人三脚で行うことで、何物にも代えがたい濃密な家族の時間を過ごすことができます。
また、男性が家で子どもを一緒に育てているという安心感が、産後うつから女性を救うことにもつながります。子育てには成功も失敗もつきものですが、それを家族で分かち合う体験は大きな財産となるでしょう。
2つ目は、男性自身が新しいフィールドを手に入れることができるチャンスであること。
現在はVUCA(ブーカ)時代と言われ、先行きの見えない不安定な社会であると言われています。仕事や会社だけを居場所にしていれば、その場所に依存することにも繋がります。
育児を通して地域の子育てコミュニティに参加したり、新しい友人を得ることにより、男性もセカンドプレイス、サードプレイスなど会社以外の居場所を作ることができます。
3つ目は、こうした体験を通じて新しい視点・知見を得ることができるということです。
子どもとの生活は感動も多いものですが、同時にヒヤリハットの連続でもあります。その気づきや発見が新しい視点を生み出します。
自分が苦もなく超えられる場所に段差があることに気が付くような日常体験の積み重ねが、複数の視点から物事を考える能力に繋がり、仕事や他の分野の学びとしても活かされていくのです。
◆男性の育児休業を取得するときの誤解とハードル
このようにメリットが沢山ある男性の育児休業ですが、いまだ取得が進まない背景にはいくつかの誤解があるようです。ここでは、大きく3つある誤解をひとつずつ解きほぐしていきたいと思います。
誤解1)1年も休めない!!休んだら会社を辞めなければならないのでは?
女性にも言えることですが、育児休業は前提として「1年取れる」制度なのであり、「1年取らなければならない」という趣旨ではありません。事実、平成30年度の厚生労働省調査によれば、現在男性の育児休業取得者が取得している日数は「5日未満の」方と「5日以上2週間以内」という回答で7割を占めています。
また、就労した日数が月に10日未満であれば育児休業の期間として認められますので、たとえば大切な会議などに参加したり、定期的に出社することは十分可能です。
誤解2)子供ができたのに、給料が下がるのは困る…。
育児休業期間中、労働者の性別を問わず社会保険料が免除されるため、例えば下記のようなケースでは実質所得としては元の給与の78%が保障されることになります。
なお、社会保険料の免除は労働者本人だけではなく会社負担分にも適用されます。
<35歳男性・月給30万円の方が産後1か月以内に1か月間の育児休業を取得した例>
※健康保険料は協会けんぽ愛知支部令和3年4月分のデータを用いて算出しています。
また、給与は課税所得となり所得税が徴収されますが、育児休業給付金は非課税となりますから、その意味ではさらに手取り所得の差は減ることになります。
誤解3)休んだら査定で悪く評価されてしまうのではないか?
育児休業を取ったことにより解雇、降格処分をすることはもとより、賞与等における不利益な取り扱いをしたり、人事考課で不要にマイナスの査定をすることは法律により禁じられています。
育児休業を申請すること、実際に取得することは子を持つ労働者の当然の権利です。
勤務先に育児休業の規定がない場合であっても法律上当然に請求できる権利ですので、これを妨げたり不当に評価することのないよう、厚生労働大臣がそのような企業名を公表するという罰則を設けています。
◆男性の育児休業を取得するには、まずは制度の理解を
とはいえ、実際に男性が育児休業を取得できるかどうかは、職場の雰囲気にも寄るところが大きいと思います。経営者や管理職者層がイクメンであったり育児休業を実際に取得している経験者であれば取得しやすい風土作りがあるでしょうが、実際はまだまだ「男性が育休なんて……」と考えている企業も多い時代。
だからこそ、実際に取得のチャンスがある男性こそ、育児休業のメリットや制度についてしっかり理解することが大事です。
休業の時期や期間についても家族や上司と相談を重ねつつ、引き継ぎなども行ったうえで休業に入ることが理想的。その際に、上記のような仕事に関連するメリットや保険料の免除の話なども踏まえながら交渉することで、だれもが気兼ねなく安心して育児休業を取得できる空気を率先して作ることができれば、ますます会社内の風通しがよくなっていき、働きやすい環境づくりが促進されるでしょう。