こんにちは。キャリコン社労士・村井真子です。
前回の記事でご紹介したアサーティブ・コミュニケーション。今回はその実践編として、具体的な活用方法をお伝えします。
目次
アサーティブ・コミュニケーションとは?
アサーティブ・コミュニケーションとは、自分のことも相手のことも大切にするコミュニケーションの方法です。
このコミュニケーションの方法を使うと、自分の意に添わないことを要求されたり、相手にお願いをしたいときなどに円滑に自分の意図を伝えることができます。最も、これは単に「自己主張ばかりする」ということではありません。また、相手を自分の思い通りに動かすための方法でもありません。
自分の意志を伝えると同時に、相手の意志を尊重するということ。それが、このコミュニケーションの最も大切なポイントです。
このコミュニケーションは、具体的にはDESC法という技法を用いて実践することができます。
アサーティブ・コミュニケーションの実践!DESC法とは?
DESC法とは、コミュニケーションを取るための情報を段階を踏んで伝える・表現する方法です。この話順で話すことにより、自分の意志も相手の考えも尊重しながら話を進めていくことができます。
なお、DESC法のDESCとは、それぞれ下記の頭文字をとって命名されています。
- D…Describe 描写する、記述する
- E…Express・Explain・Empathize 表現する、説明する、共感する
- S…Specify 具体的な提案をする
- C…Choose 選択する
では、早速それぞれの内容を見ていきましょう。
D…Describe 描写する、記述する
これから話し合いや解決をしたい内容、問題だと感じていることを相手に伝えるステップです。ポイントは客観的かつ具体的に、事実のみを伝えていくこと。この段階で、まず最初に「私はあなたとこれからこの内容について話し合いたいです」という話し合いのためのテーマ設定を行います。
E…Express・Explain・Empathize 表現する、説明する、共感する
次に、先ほど述べたテーマに対する自分の気持ちを伝えます。このテーマについて「自分としてはこう思っている」「こう考えている」ということを主観的な言葉で話しましょう。ポイントとしては、必要以上に感情的にならないことです。話している間に感情が高ぶってしまいそうになったら、一旦深呼吸して気を落ち着けてから改めて話し出しましょう。
S…Specify 具体的な提案をする
テーマ設定をし、自分の気持ちを伝えたら、次はそのテーマに対して具体的にどのように自分は行動したいか、相手にしてほしいことを具体的に提案します。この「具体的な提案」があるということがDESC法の一番のポイントになります。どんな小さな内容でも、実際に取り組めるような提案、妥協案、解決策を明確にして伝えましょう。
また、相手が絶対に受け入れられないような提案は感情を決裂させる原因になってしまうので避けましょう。この段階では、あくまでも現実的に対応可能かどうか、ということに絞って提案します。
C…Choose 選択する
最後は、先ほどしめした提案について相手と話し合いをする中で、最終的にどのような方法を取るかを選びます。
自分が示した提案をスムーズに相手が受け入れてくれればいいのですが、ほとんどの場合は難しいことが多いでしょう。むしろ、自分と相手の価値観や考え方が異なっているからこそ話し合いをする必要が生じているのですから当然のことです。
また、自分の意志を尊重することと同時に相手のことも尊重する必要がありますので、否定的反応があることはある意味で話し合いを深めていくために大切なステップと言えるでしょう。
ここでポイントになるのは、絶対に自分の意見を押し通そうとしないこと、相手が反対してきた場合、どのような妥協案・解決策が提示できるかを予め用意しておくことです。特に相手からの反論を予定しておくことで、不用意に傷ついたり怒りを覚えたりすることを回避することができます。
では、このDESC法を使って、実際にどんなふうに話ができるか、具体例を見ながら考えてみましょう。
DESC法を仕事の場面で実践!突然の残業を断るにはどうすれば??
あなたの子どもは今日が誕生日。夜はお祝いに家族みんなで外食に行こうと考えています。あなたはそのために一週間ほど前から仕事を調整したり、残業したりして今日だけは絶対に定時退社をしたいと考えていました。
その甲斐あって、なんとか今日は定時に帰れそう…と思った瞬間、上司から「これを明日までにまとめてくれないか?」と資料の束を渡されました。定時まであと2時間、どう考えても間に合いそうにありません。
こんなとき、あなたならどうしますか?
諦めて残業するという方法もありますが、「どうしても今日だけは帰りたい!」と思うなら、DESC法を活用してみることをお勧めします。
では、このケースで上司に交渉する場合を想定して実際にDESC法を使ってみましょう。
D「今指示された書類の作成の件でよろしいでしょうか?」
E「明日までとのことなのですが、本日はどうしても定時で帰りたい用事があり、残業できません。昨日時点で明日までに必要な仕事は完了しておりますが、いま指示されたこの仕事は、ボリュームから考えても残業しないと明日までには終わらないいと思われます。しかし、どうしても今日だけは残業いたしかねます」
S「明日の朝イチでよければ対応しますが、いかがでしょうか?」
→提案がOKだった場合のC「ご理解いただきありがとうございます!明日一番でまとめます。」
→提案がNGだった場合のC1「今からこちらを最優先にして進めますので、定時までにまとめられる範囲まででよろしいでしょうか?」
→提案がNGだった場合のC2「では、私から○○さんに代わっていただけるかお願いしてみます」
→提案がNGだった場合のC3「明日の何時までに必要ですか? そこまでにみんなに手分けしてお願いい出来るか聞いてみます」
いかがでしょうか。イメージできましたでしょうか?
- D…今頼まれた書類の件としてテーマを設定
- E…状況の説明と、どうしても残業したくないという意志を伝える
- S…提案
- C…提案に対しての相手の反応を予測した複数の選択肢の提示
実際には、相手もあることなのでこのようにスムーズに行く場合ばかりではありませんが、脳内でこのように話を組み立ててから伝えると感情的にならずに自分の意向を伝えることができるようになります。
まとめ
DESC法は慣れるまで難しいようにも感じますが、繰り返すことでスムーズに自分の意図を伝えられるようになります。
社会においてはすべて自分の思い通りにすることはできませんが、自分の意志を伝えたいとき、相手と話し合いがしたいときには「どうせ話しても…」と諦めず、一度はこのような交渉にトライしてみることをお勧めします。
アサーティブなコミュニケーションを通して、人間関係のストレスを減らし毎日を心地よく過ごしましょう!
参考文献
平木直子 著「アサーション入門―自分も相手も大切にする自己表現法―」
2012年2月発行 講談社現代新書